2103年9月29日、日曜の午後1時、東京オフィス街のど真ん中、丸の内の一角に突如 100 名ものフラメンコ ダンサーが出現 した。平日のオフィス街から、日曜日には東京のトレンディスポットへと変貌する丸ビルの1階、マルキューブ。ここは、吹 き抜けになった広場で、周囲はショッピングモールに囲まれ、一角にはカフェもあって、行きかう人々の憩いの場とも なっている場所だ。
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そこに突然フラメンコ ダンサーたちがあらわれ、踊り出したのである。いったいなにが起ったのかと、買い物客や通 行人で周囲には、すぐに人垣ができた。足早に歩いていた通行人たちが足を止め、2階3階の買い物客たちは、フェン スから身を乗り出して、さっそうと踊るダンサーたちを見つめている。中には、踊りに合わせてパルマ(手拍子)を叩く 人や、時にはオレ!と掛け声もとびかって、しばしその場は、さながらスペインのフィエスタ(祭り)と化したのだった。
ところで、フラッシュモブという言葉をご存じだろうか?フラッシュモブとは、ネット上でのある呼びかに不特定多数 の人が反応し集まって、街中で突然行われるパフォーマンスのこと。プロポーズ系やダンス系、音楽系など、ネット上で はこのところ、なにかと話題を集めている。
この日行われたのは、10月12日(土)から14日(月 祝)にかけて開催される「フラメンコ フェスティバル in Tokyo」のプ レ イベント。日本で初めてのフラメンコ フラッシュモブが行われたのである。
「カジェ フラメンコ」(道端のフラメンコ)という言葉が元々あることからもわかるように、本来フラメンコは、フラッシ ュモブ的な楽しみ方に適していると言えるかもしれない。現在のフラメンコは、多様な発展を遂げ、劇場芸術としても 素晴らしい進化を続けているが、フラメンコはそもそも、劇場にではなく、人々の生活の中や街の中に存在するもの だったからだ。だから、というわけでもないだろうが、この日たまたま居合わせた、フラッシュモブにもフラメンコにも 馴れていないであろう観客たちも、このサプライズなパフォーマンスに、最初は驚き、ただ凝視していたが、踊りが進 むにつれて次第に表情が柔いで、やがて一緒に体をゆすって楽しんでいた。パッショネイトなフラメンコには、どうや ら楽しさの波及効果があるらしい。
この日踊られたのは、まず、小島章司フラメンコ舞踊団団員10数名による「タンゴ」。日本のトップクラスの実力を誇る ダンサーたちのキレのある動きに、観客たちの眼は釘付けとなった。これに続いて、全国から集まった一般参加のダン サーたち約80名が加わって、フラメンコを踊る人なら誰もが知っているスタンダードナンバー「セビジャーナス」が踊 られた。一般参加者の多くはフラメンコ教室に通う生徒たちだが、皆なかなかの芸達者で、表情豊かにフラメンコの魅 力と踊る楽しさを伝えていた。
わずか10分余りのパフォーマンスだったが、会場には温かな空気がながれ、最後は大きな拍手につつまれて、踊り終 わったダンサーたちは、街のどこかへと消えて行った。
丸の内という場所柄もあり、またフラッシュモブはサプライズ感が大事なこともあって、時間や場所など詳しい開催 情報は事前には公開されなかった。たまたま居合わせた観客はかなり貴重な体験をしたラッキーな人たちと言って いいだろう。
さて、10月に行われる「フラメンコ フェスティバル in Tokyo」では、本場スペインのトップダンサーたちが続々と来日 する。
フラメンコ界のニンジンスキーと言われ鬼才イスラエル ガルバン、 斬新なアイデアと驚異の身体能力で魅了するロシオ モリーナ、 1990年代からフラメンコの新
しい潮流を作ったベレン マジャ 闘牛士を父に持ち、究極の男性美を体現するマヌエル リニャン。
フラメンコの伝統をしっかりと身に宿しながらも、これまでのフラメンコの枠には収まらない、現代フラメンコの最先端 を疾走するアーティストたちだ。彼らがいったいどんな舞台を見せてくれるのか、期待がつのる。きっと、フラメンコに 対する旧来のイメージでははかり切れない驚きと感動があるはず。すべてのダンスファンに見ていただきたいライン ナップだ。
文: 西脇美絵子(フラメンコ シティオ主幹)